| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-281 (Poster presentation)
サル(ニホンザル)は本来、森林に生息するが、現在は人間の生活圏内に進出している。その原因として、拡大造林に伴う広葉樹林の減少や農地の増加、農村の過疎化などの生息地の変化が挙げられる。こうした生活環境の変化に対して、サルは生活を変化させてきた。その変化の内容を解明するため、神奈川県丹沢東部の農地を利用しない群れ(自然群)と農地を利用する群れ(加害群)の群落利用を比較した。ラジオテレメトリ法により群れの位置を把握し、GIS上で植生図を用いて解析を行った。また、サルの林縁利用を明らかにするために、道路や草地などと森林の境界から内外50mを林縁とし、その利用率を調べた。自然群は初夏・晩夏・晩冬・春には針葉樹林の利用が多く、森林利用のうち40%前後で林縁を利用していたが、秋・初冬は広葉樹林の利用が多く、林縁の利用は10%前後となった。自然群は食物状況がよくない季節は、林縁のマント群落をうまく利用して生活しているが、林内の食物供給量が増える秋には、広葉樹林内で堅果類を採食していると思われる。一方、加害群は年間を通して広葉樹林の利用が多かった。森林利用の50%前後は林縁を利用しており、そのうち50%は農地に近い林縁(50m以内)を使用していた。加害群は農地を利用するため、群落利用の季節変化が少なかった。また、林縁の利用も季節変化が少なかったのは、林縁を農地を利用する際の隠れ場所にしているためであると思われる。以上のことから、加害群のサルは、農地の利用を自らの生活に取り入れ、行動圏内の群落利用を変化させていたと考えた。このことから、サルは環境の改変に対する可塑性が大きいことが確認された。