| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-286 (Poster presentation)
近年、生物の採餌生態に関わる研究において個体レベルでの研究が実施されるようになった。個体が個体群の食性ニッチよりもより狭い、またはそこから外れたニッチを持つことを食性特化(Individual dietary specialization)と定義し、生物の生態的・進化的理解に重要な要素とされている。特にジェネラリストはその生態学的可塑性から個体間の食性の多様度が高いと言われているが、個体の食性特化を定量的に示している研究や採餌資源に影響を与えると考えられている個体の性・齢などの内因的要因また資源の重要性についてはあまり知られていない。
そこで本研究ではジェネラリストであるヒグマ(Ursus arctos)を対象とし、体組織の中で最も長期的(数年間)な食性情報を蓄積しており、個体の食性特化を議論するのに適したタイムスケールである骨コラーゲンの窒素安定同位体比および炭素安定同位体比を用いて、ヒグマの食性特化を定量的に示し、性と採餌資源(特に副次的資源)が食性特化に与える影響について検討した。
その結果、性の影響については、オスよりもメスの方がより食性が特化していることが明らかとなり、これは性による行動圏サイズの差異、体サイズの違いによる栄養要求量の差異が関係していると考えられた。また資源の影響については、ヒグマの主要採餌資源である植物質よりも副次的資源である陸生動物質(シカ)の利用が多い個体ほど食性が特化していたこと、シカの利用可能量が多い地域の方が少ない地域よりも個体の食性特化が大きかったことより、食性の特化に副次的な資源の影響が大きいことが明らかとなった。