| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-291 (Poster presentation)
近年日本国内でナラ枯れと呼ばれるブナ科樹木の集団枯死現象が問題となっている。その原因となる菌類を保持、媒介するカシノナガキクイムシ (Platypus quercivorus) の穿孔様式や繁殖生態が明らかにされつつあるが、その移動分散生態については不明な点が多い。被害地での防除にあたり、飛翔距離など移動分散に関する基礎情報の把握が求められる。本研究ではカシノナガキクイムシを蛍光標識することによってその移動分散生態を解明することを目的とした。
調査は2008年に初めてナラ枯れの発生が確認された京都府東部のミズナラとクリが優占する二次林で行った。2010年に枯死したミズナラが集中している3サイトで、枯死木の穿孔部を覆うように蛍光付着管を2011年7月に取り付けた。蛍光付着管はカシノナガキクイムシの脱出成虫が内部を通過した際に粉末状の蛍光塗料が付着するような構造を持たせたものである。また蛍光塗料はサイトごとに異なる色 (赤、黄、緑) を使用し、蛍光付着管は各色とも合計500個をカシノナガキクイムシの羽化脱出が終了する2011年10月中旬まで設置した。その後調査区内を踏査し、当年被害木の樹幹上と地際に堆積したフラスで蛍光塗料の有無を確認した。
調査対象とした2011年の被害木85本中、蛍光塗料が検出されたのは赤12本、黄9本、緑10本だった。検出位置から算出した飛翔距離は最小8mから最大517mだった。蛍光塗料の検出確率を予測するため一般化線形混合モデルを構築した結果、最適モデルでは検出確率は飛翔開始地点からの距離に依存することが示された。検出確率の予測曲線を円周で補正した結果、カシノナガキクイムシの到達頻度のピークは飛翔開始地点から120m付近に存在しその後緩やかに減衰する形をとった。この結果から直近には飛翔しないカシノナガキクイムシの移動分散生態が示唆された。