| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-293 (Poster presentation)
雌が複数の雄と交尾すると,雄が受精を巡って争う精子競争が生じる.精子競争において雄は多くの精子を投資した方が有利であるが,精子の生産は有限である.そのため雄にとっては,状況に応じて投資量を調節することが適応的であると考えられる.
Parkerの理論によると,雄は未交尾の雌よりも既交尾の雌により多くの精子を投資すると予測される.しかし,様々な動物の投資様式をメタ解析した研究では,この予測は支持されない.これは,種によって精子競争の様式や程度が異なるからであると考えられる.例えば,EngqvistとReinholdの理論では,雄の交尾した順番が受精獲得に影響する場合,その優先性の程度によっても雄は投資調節を変えると予測される.
本研究で用いるオオオサムシ亜属は,多様な交尾器形態,精子束二型,精包置換など,様々な興味深い特徴をもつことから,交尾行動の進化を比較研究する上で良い材料である.そこで本研究は,まずこの亜属のイワワキオサムシを用いて,雌の交尾経験に応じて雄が精液量をどのように調節するかを調べた.その結果,雄は未交尾の雌よりも既交尾の雌により多くの精子を投資することが明らかとなり,Parkerの理論による予測と一致した.しかし,精子束数に関しては,精子数とはやや異なる反応が示唆された.これは,精子数の調節において,精子束のサイズや束当たりの精子数を調節している可能性を示唆する.そこで,精子束のサイズを測定し,雌の交尾経験に応じて輸送する束のサイズを変えているか検証した.また,P2値(2個体の雄が雌と交尾した時の後の雄の受精獲得率)を測定することで,このような雄の投資調節が適応的であるかを,EngqvistとReinholdの理論に基づいて検討した.