| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-295 (Poster presentation)
適切な営巣場所の選択は、餌資源と配偶者の獲得や、捕食を回避する上で重要である。ま
た巣移住時には、新たな巣場所への迅速な移動も捕食回避に欠かせない。本研究では、分
巣や撹乱で巣移住の機会が多いヤマヨツボシオオアリを対象に、巣場所の選好性と移巣時
間を調べた。
二者択一実験で選好性を検証した結果、本種は他コロニーばかりでなく、巣仲間の痕跡も
避け、痕跡のない巣場所を有意に選択した。巣仲間の痕跡と他コロニーの痕跡の比較で
は、有意な差はなかった。先行研究では、house-hunting antが他コロニーの痕跡を避け、
巣仲間の痕跡を好む一方、アミメアリは巣仲間の痕跡も他コロニーの痕跡も好むことが分
かっている。そのため、巣仲間の痕跡に対する回避は、本種が初めての報告となった。こ
のように、同種他個体の痕跡に対しては反応に大きな種間変異があることが分った。
巣移住におけるカーストの役割を比較するため、コロニーの構成を変えて、移住に要する
時間を測定した。大型ワーカーを除き、女王と小型ワーカーのみで移住した場合、通常の
構成のコロニーと所要時間に差はなかった。しかし、小型ワーカーを除き、女王と大型ワ
ーカーだけで移住した場合、通常の約5倍の時間がかかった。小型ワーカーは、実験開始
直後から積極的に探索をはじめ、巣場所を発見すると他個体を先導する行動が頻繁に見ら
れた。一方、大型ワーカーは、前巣を失っても女王の周辺に留まり、なかなか自発的に動
き出さなかった。このように、巣移住では小型ワーカーに決定権があり、大型ワーカーは
女王の護衛役に徹することが示唆された。