| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-300 (Poster presentation)
ゲンゴロウやクロゲンゴロウなどの在来大型水生甲虫は生物多様性の高い水辺環境の指標種であり,かつては普通種として広く分布していたが,近年急激に個体数が減少している.特にゲンゴロウ属は,我が国で確認されている8種中7種が環境省版レッドリストで準絶滅危惧(NT)以上に指定されるなど危機的状況にある.減少要因としては,開発や水質悪化,侵略的外来種の影響などが複合して作用していると考えられるが,最近の研究でウシガエルの胃内容物からゲンゴロウが発見され,ウシガエルは直接の捕食によって大型水生甲虫に負の影響を及ぼすことが疑われている.
本研究では,ウシガエルがため池に生息する大型水生甲虫の個体数に与える影響を検討するため,今でも生物多様性の高いため池が数多く残されている岩手県北上川水系久保川流域で調査を行った.この地域では伝統的な農業形態や土地利用・管理が維持され,久保川イーハトーブ自然再生協議会によって侵入したウシガエルの排除活動が行われている.
調査は2012年夏と秋に環境要因の違いが幅広くなるよう選定した129カ所のため池において手製のペットボトル製トラップを用いて行い,大型水生甲虫の種と個体数,植被度等ため池の環境要因,ウシガエルの在・不在を記録した.
池ごとのゲンゴロウとクロゲンゴロウの捕獲個体数を目的変数,ウシガエルの在・不在と池面積,植被度,各池から半径1km圏内に存在するため池の数を説明変数として一般化線形モデルを用いて統計解析を行ったところ,ウシガエルが存在する池では上記2種の捕獲個体数が有意に少ないという結果が得られた.したがって,ウシガエルは在来大型水生甲虫に負の影響を与え,その個体数減少要因の1つであるということが示唆され,自然再生事業としてのウシガエル排除の妥当性が示された.