| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-302 (Poster presentation)

チュウヒの保全が湿地性生物の保全に果たす役割

*先崎理之, 山浦悠一(北大農・院)

生態系に生息する全ての生物種の把握と保全には,莫大な時間とコストがかかる.このため,より安価で容易な代替的手法をもちいて生物多様性を保全するのが一般的である.中でも,アンブレラ種の保全により生物多様性保全を図る手法は主要な代替法である.しかしながら,アンブレラ種の保全による生物多様性保全の有効性は明確ではないので,これを検証する研究が必要とされている.

アンブレラ種と生物多様性の関係を検証した従来の研究は,アンブレラ種の在・不在のみに着目してきた.しかし近年,アンブレラ種の生息地には,長年利用され繁殖成績が良い高質な生息地と,あまり利用されず繁殖成績が悪い低質な生息地があることが分かってきた.従って,アンブレラ種の生息地の質と生物多様性の関係を明らかにすることができれば,アンブレラ種を用いた生物多様性保全がより効果的に行えると考えられる.

湿地生態系は,今日もっとも危機的で保全が望まれる生態系の一つであるが,これまで,湿地生態系のアンブレラ種と生物多様性の関係は調べられていない.本研究では,2012年夏季に北海道胆振地方の低地にある2~93haの29の湿地で,アンブレラ種であるチュウヒの繁殖の有無,湿地性の鳥類,草本類の種多様性を調べた.これらにより,チュウヒが繁殖する湿地としない湿地での鳥類と草本類の種多様性を比較した.また,チュウヒの繁殖成績とこれらの種多様性の大小の関係も検討した.

本報告では,これらの結果に基づき,チュウヒの保全が湿地性生物の多様性保全に有効かどうかについて議論したい.


日本生態学会