| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-314 (Poster presentation)

貯水ダムの出現が河川内有機物に与える影響の評価

*坂東伸哉,河口洋一(徳島大・工),大串浩一郎(佐賀大・工),野崎健太郎(椙山女大・教),野口剛志,手塚公裕(佐賀大・工),濱岡秀樹(水産研),関島恒夫(新潟大・農)

ダム建設は下流の有機物動態を変化させ、河川生態系に影響を及ぼす。ダムが付着藻類や堆積有機物等の河川栄養基盤に及ぼす影響については、これまでにも複数の研究が行われてきた。しかし、これらはダム運用後からの調査であり、ダム湖出現前後にあたる試験湛水の開始前後で比較を行った研究はほとんどない。本研究は、2010年10月に試験湛水を開始した嘉瀬川ダム(佐賀県)の上下流を対象に、試験湛水前後で付着藻類、堆積有機物等に生じる影響を量的・質的に評価した。

調査は、試験湛水開始前(湛水前)の1年間に11・4・7月の季節で3回、試験湛水開始後(湛水後)の2年間に同季節で6回実施した。調査地は、ダム上流に1地点(St.1)、下流に3地点(St.2,3,4)設置し、付着藻類、堆積有機物FPOM、流下有機物FPOM(1μm~1mm)・CPOM(1mm~16mm)を採取した。付着藻類は、Chl-a量、種組成の同定により評価し、堆積有機物は、強熱減量、炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)により評価した。

付着藻類のChl-a量は、湛水後にSt.3で顕著に高くなった。また、種組成では、St.2で湛水後に藍藻の割合が増加した。この要因として、試験湛水開始に伴う放流量の制御により、下流での攪乱が減少したことが挙げられる。堆積有機物FPOMのδ13C・δ15Nの結果から、St.2の湛水後4月でδ15Nが顕著に高い値となった。この要因として、ダム湖内で発生する植物プランクトンが考えられる。湛水後の4月で、ダム湖内のChl-a量が最大であったことから、ダム湖内での植物プランクトンの活発なブルームにより溶存態窒素が減少し、プランクトン自体のδ15Nが高くなり、それらが下流に流下したためと考えられる。


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