| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-322 (Poster presentation)
森林生態系において、倒木は小型哺乳類の営巣場所や餌場を提供するなど重要な役割を持っている。しかし熱帯では択伐が行われた後、倒木が長期にわたり減少することが知られており、倒木に依存した小型哺乳類の多様性が減少する恐れがある。一方、伐採木の林冠部や巻き沿い木などの伐採残渣は哺乳類の多様性を向上させる可能性があるが、その取扱いに関する規制は存在しない。そこで我々は、半島マレーシア北部の択伐林において、伐採後林内に放置された伐採残渣が小型哺乳類の多様性向上に貢献するかどうか確かめることを目的として調査を行った。
調査は2012年8月に、マレーシア・ペラ州に位置するテメンゴール保護林において行った。調査区には2010年の伐採の際に発生した伐採残渣が残置されている。これらの伐採残渣に対し1台ずつ、計18台の自動撮影装置を取り付け、コントロールとしてそれぞれの伐採残渣から25m以上離れた地上に自動撮影装置を17台設置し、10日間撮影を行った。自動撮影装置に写った個体を種、または属レベルでカウントし、伐採残渣有・無群間で種数、シャノン・ウィーナーの多様性指数(H’)、各種の出現回数の比較を行った。
結果、残渣無群に比べて残渣有群の方が種数、多様性指数ともに有意に高かった。このことは伐採残渣が小型哺乳類の種多様性を向上させることを示している。さらに、出現した小型哺乳類の各種の出現回数を2群間で比較すると、11種類中7種が残渣有群で、1種が残渣無群で有意に多く出現していた。残渣有群の出現が多い種の多くは餌資源や営巣に倒木を利用する種や樹上性の種であり、残渣無群の方が多く出現した種は地上性で地下に営巣する種であった。これらのことから、長期的に天然の倒木の減少を抑制する低インパクト伐採等と合わせて伐採後に伐採残渣の管理・活用を行うことで、小型哺乳類の多様性保全が効果的に行えるといえる。