| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-327 (Poster presentation)
シカの採食・踏圧による陸生植物への影響は研究が多い一方で、水生植物における知見は限られ、その影響把握さえ十分に検討されていない.本研究では,近年エゾシカの生息数が増加している北海道西部の千歳川水系ママチ川において,絶滅危惧ⅠB類(環境省 2012)に指定されているバイカモ類・チトセバイカモに対するエゾシカによる影響の有無,影響に介在する要因を検討した.
エゾシカによる影響の有無を検証するため,エゾシカの進入を阻む構造物を用いた操作実験を行った.並んだ2つのバイカモ類のパッチのうち片方にシカの侵入を防ぐネットを設置し,2012年8月から2013年2月まで両パッチの茎長の平均を比較した.さらに自然環境下におけるバイカモ類の茎長に介在する要因を検討するため, 52箇所のバイカモ類のパッチを対象に茎長の平均,水深,半径1m以内の倒木の有無,水面での光量を計測し,GLMを用いて要因分析した.
操作実験の結果,エゾシカの侵入を阻む構造物を設置したパッチでは対照区に比べ有意に茎長が長く(12月,P<0.05),エゾシカが茎長を短くしていることが示唆された.また,自然環境下においてバイカモの茎長は,水深が深く,倒木がある場所で有意に長く(共にP<0.01),一方で光量による有意な影響はなかった.これは調査地であるママチ川は閉鎖林冠下を流れるため,光量に差はなく,水深が深く付近に倒木が有る,つまりエゾシカの採食・踏圧を受けにくいパッチでは,バイカモの生育が良いと考えられる.発表では自動撮影カメラを用いたエゾシカの河川利用の季節変化のモニタリング結果と合わせて考察する.