| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-334 (Poster presentation)

母系・両系DNAマーカーを用いた日本沿岸に生息するスナメリの遺伝的集団構造の解明

*會津光博(九大・比文),西田伸(宮大・教育),楠見淳子(九大・比文),田島木綿子(科博),山田格(科博),天野雅男(長大・水産),荒谷邦雄(九大・比文)

スナメリ(Neophocaena phocaenoides)は沿岸性の小型鯨類であり、日本沿岸個体群に関しては、分布の不連続性、頭骨形態の差異、およびmtDNAコントロール領域(345bp)の解析により少なくとも5つの地域集団(仙台湾~東京湾、伊勢・三河湾、瀬戸内海~玄界灘、大村湾、有明海・橘湾)の存在が示唆されている。本研究では両系遺伝するマイクロサテライトDNA(MS-DNA)と、mtDNAコントロール領域のより長い配列(853bp)を用いた解析を行うことで、雌雄の遺伝情報に基づいた日本沿岸個体群の遺伝的構造の解明とその形成史の解明を目指した。MS-DNA解析において各個体の集団への帰属性を推測するSTRUCTURE解析を行ったところ、集団数は5と推定され、これまでの地域集団を支持する結果が得られた。mtDNA解析では先行研究と同じく瀬戸内海~玄界灘集団vs大村湾集団を除いて集団間に有意な分化が見られ、MS-DNAとmtDNAでほぼ同様の結果が得られた。また、MS-DNAでのみ地理的距離と遺伝距離に有意な正の相関が見られ、雄に依存した遺伝子流動の可能性が示唆された。中国沿岸の本種個体群に関する先行研究と本研究より検出されたmtDNAハプロタイプを比較したところ、日本沿岸個体群のハプロタイプは大きく2つのクレードを形成し、これらのほとんどは日本固有であった。一方で、これらのクレードは中国沿岸個体群のハプロタイプからなるグループを挟むように位置し、中国沿岸個体群との複雑な系統関係が示唆された。特に有明海・橘湾集団が保有するハプロタイプは日本の両クレードに加えて中国グループ内にも見られ、他地域集団とは異なる形成史を経ている可能性が示唆された。


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