| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-343 (Poster presentation)
野生化したヤギの食害・踏圧により植生が後退した海洋島において、ヤギ駆除後の植生回復の程度には、植生の種組成だけでなく土壌の物理化学的な特性が関係すると考えられる。土壌特性に影響する要因として、(1) 海鳥の営巣の有無、(2) 過去の植生の退行の程度、(3) 現在の植生タイプ、(4) 地形等が挙げられる。特に、海鳥の営巣は、窒素やリンといった栄養塩の土壌への添加や踏みつけを通じて、植物の成長を支える土壌特性を変化させると考えられる。また、海鳥の密度と営巣地の選好性は、土壌への栄養塩添加の程度に違いを生じさせる可能性があり、土壌を介した植物の成長への影響が予想される。
そこで、本研究では、「海鳥の営巣密度と種による営巣地の選好性の違いは、土壌を介し、植物の成長に影響を及ぼす」という仮説を野外の土壌を用いた栽培実験により検証した。ヤギ駆除後から約10年が経過した小笠原諸島の媒島の土壌を対象とし、土壌特性に影響すると想定される地中営巣性のオナガミズナギドリ(Puffinus pacificus)と地上営巣性のカツオドリ(Sula leucogaster)の営巣密度の違いが、植物の成長に与える影響を調べた。営巣している海鳥種や営巣密度が異なる96地点から採取した土壌を用いてギョウギシバ(Cynodon dactylon)を18日間ポット栽培し、収量を測定した。
海鳥の営巣地の土壌で栽培した植物の収量は、営巣地でない土壌で栽培した植物の収量より大きい傾向があった。しかしながら、営巣している海鳥種や営巣密度の違いによる収量の違いは、見られなかった。以上の結果は、植物の成長が、海鳥種や密度の違いよりも海鳥の営巣の有無とより強く関係していることを示唆する。