| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-353 (Poster presentation)
日本には定期的な管理が行われてきた里山と呼ばれる二次林が多く存在し、生物多様性の観点からその重要性が再認識されている。しかし、これらが炭素循環に与える影響については十分な研究がされていない。本研究では、対照(C)区、下草刈り(UH)区、下草刈り・落ち葉搔き(LR)区を設け、里山の代表的管理が冷温帯コナラ林の炭素循環に与える影響について調査した。各区の生態系純生産量(NEP)を算出するために、純一次生産量(NPP)と土壌呼吸速度(SR)を測定した。SRはトレンチ法のデータを用いて根呼吸と土壌生物呼吸(HR)に分離した。さらに、管理収穫物(下草・落葉)はバイオ燃料としてのエネルギー利用を検討した。
管理の結果、NEPはC区で最大値を示したが、UH、LR区も共に正となった。また、NPP、SR及びHRは、C区と比較して、UH、LR区では減少した。これは下草除去や土壌生物活性の低下に原因があると考えられる。即ち、管理により生態系の炭素固定能力は低下するが、CO2の放出量も減少すると言える。エネルギー利用による炭素放出を考慮すると、UH区のNEPは正に留まるが、LR区はほぼ0となった。バイオ燃料による化石燃料削減はNEPに正の効果を及ぼすが、収穫物の燃焼による負の効果も及ぼす。この負の効果は、HRの減少や化石燃料削減といった正の効果を上回ることがある。これらの結果から、下草刈りや落ち葉搔きを行っても、森林は炭素のシンク又はニュートラルな存在として機能しうることが明らかになった。但し、管理強度が強いほどNEPには負の影響を与えるので、伐採等を含めた管理を行う場合、長期間で炭素収支が正になる周期を判断する必要がある。以上のことから、里山的な森林管理は、エネルギー資源の獲得の面でも有用であると考えられる。