| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-354 (Poster presentation)
貯水ダムは社会基盤整備として重要な役割を持つが,一方でダム下流の河川生態系の劣化や生態系サービスの低下を引き起こしている.特に「アユ」は,ダム設置により漁獲量が減った,味が悪くなったと指摘され,その結果,人と川の疎遠化といった問題も引き起こしている.ダム設置によりアユの食味が低下したことを報告する事例はあるが,アユの食味と餌生物である藻類や,ダムの有無との関係を明らかにした研究はない.本研究では,ダムがアユの食味に影響しているかを明らかにし,アユの食味に影響する河川環境要因を抽出することを目的とする.
調査は新潟県佐渡島のダムのある川とない川(各4河川)で,2011・2012年度の夏季に,アユと藻類の採取,物理環境の計測を行った.アユは食味試験(アユ料理専門店で塩焼きにし,9項目(姿,食前香り,身の硬さ,身の香り,脂分,こく,わた,わたのにおい,総合)を,被験者(20-70代 各年代5名 計30名)により5段階で評価)及び,安定同位体比測定(δ13C・δ15N)を,藻類はクロロフィルa量,種組成同定,及び安定同位体比測定を行った.
2回の食味試験の結果は同じ傾向を示し,両年ともダムのある川が全体的に高評価を得ていた.しかし,ダムのある川は評価の最も高い川と低い川が見られ,評価のばらつきが大きかった.一方,ダムのない川では評価のばらつきは小さかった.食味評価にはアユの体サイズが影響しており,体サイズが大きいアユ(最大で20cm程度)は食味に関する複数の項目で評価が高かった.アユと藻類の関係では,藻類に占める藍藻綱の割合とアユ肥満度の間に負の相関が見られ,個体数密度と藍藻綱の割合に正の相関,クロロフィルa量とアユの全長に正の相関が見られた.
今回の発表では,これらの結果を主とし,考察される事項について報告する.