| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-386 (Poster presentation)

汽水湖における森林から魚類への物質循環

*山岸明日翔, 中山貴将, 柳井清治(石川県立大・生物資源環境)

近年,森川海のつながりを重視した生態系管理の重要性が認識されてきたが,その繋がりを示す具体的な研究事例は極めて少ない.筆者らは森林と水域が密接に繋がる汽水域の生態系に注目し,安定同位体比により陸ガニ類を介した森林から湖生態系への物質循環の解明を試みた.調査地として福井県と石川県境に位置する北潟湖と,その湖岸に位置する面積3haの照葉樹天然林(鹿島の森)を選定した. この森には陸ガニ類(アカテガニ, クロベンケイガニ)が多く生息しており,夏季の夜に水辺でゾエアを放出し,それを求めて多くの魚類が集まる場所となっている.

研究方法として,安定同位体比分析により食物連鎖構造の解明を行うとともに現地観測・実験を並行して行った.森林内ではリタートラップを用いて一次生産量を算出し,方形枠を用いて陸ガニ類の密度と生物量を計測した.次に実験室内で陸ガニ類の飼育実験を行い,落葉の摂食率を求めた.また放仔時期には岸辺に集まる魚類を計測するため,暗視スコープ付のカメラを設置した.同時に投網により魚類を捕獲し,その種類と個体数,そして体長・湿重などを測定した.安定同位体比測定分析用サンプルとして陸ガニ類と放仔直前の卵,落葉,昆虫類および土壌動物類を採集し,さらに湖で捕獲された魚類とともに乾燥後粉砕し,分析を行った.

この結果,陸ガニ類の安定同位体比は-26‰(δ13C),6‰(δ15N)前後であった(以下同順).餌源となる落葉は-30‰,0‰前後の値を示すことから,陸ガニ類は落葉だけではなく動物類も利用していると考えられた.一方,放仔直前の卵は-28‰,3‰前後の低い値であった.魚類の中では,ボラ類が-21‰,7‰と魚類の中では最も低く,ゾエアが多く観察された胃内容物の測定結果と一致していた.この安定同位体比分析と実験結果から,森から魚類までの物質移動経路について考察を行う.


日本生態学会