| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-387 (Poster presentation)
脂肪酸の炭素安定同位体比に着目した食物網解析手法は,従来のバルクの安定同位体比を用いた方法と比較して,より詳細に食物網を解析できると期待されている。しかしながら食物連鎖に伴う各脂肪酸の炭素安定同位体における同位体効果は未だ明らかにされておらず,同化した餌と動物の脂肪酸の炭素安定同位体比の関係は分かっていない.
そこで本研究ではゼブラフィッシュ,マルタニシ,カワニナの水生動物3種類を対象に全ての必須脂肪酸を含む人工飼料テトラミンと炭素数18の必須脂肪酸のみを含む緑藻クロレラを餌として100日間の飼育実験を行った。動物体内の必須脂肪酸の炭素安定同位体比の経時変化を指数関数で近似し,得られた漸近値と餌との差分から濃縮係数を算出した。
炭素数18の必須脂肪酸ではテトラミン,クロレラそれぞれの実験系において,ゼブラフィッシュとマルタニシは日数経過に伴い餌の値に漸近し,同位体効果による濃縮係数は0‰となった.一方で,炭素数20以上の必須脂肪酸では動物種や餌のタイプによって異なる結果が得られ,餌に含まれる必須脂肪酸の有無や動物種の体内合成などに依存して濃縮係数が異なるものと考えられた.カワニナに関しては、実験初期の段階で脂肪酸の炭素安定同位体比の個体差が大きく,ゼブラフィッシュやマルタニシと同様の方法では同位体効果による濃縮係数の算出が行えなかった.そこで実験最終日である100日目における脂肪酸の炭素安定同位体比と餌の値との差によって濃縮係数を算出した.その結果ゼブラフィッシュ,マルタニシと同様に炭素数18の必須脂肪酸の濃縮係数は約0‰と算出された。以上の結果から、炭素数18の必須脂肪酸の炭素安定同位体比は餌と動物の間で変化が無く,食物網解析における餌資源特定に対して有用であることが示された.