| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-397 (Poster presentation)

生体内元素分析を用いたヨシ原の生物群集における食物網解析

*佐藤臨(弘大院・農学生命), 鎌田帆南(弘大院・農学生命), 坂有紀子(弘大院・農学生命), 渡邉泉(東京農工大・農学), 東信行(弘大院・農学生命)

岩木川下流部の河川敷に広がるヨシ原は、オオセッカLocustella pryeriをはじめとする草原性・湿地性鳥類の重要な繁殖地となっている。これら小型鳥類は,節足動物を主要な餌として繁殖を行なっているが,ヨシ原の生物群集における食物網の構造解析は直接観察では限界があり,なおかつ餌生物の食性解析は極めて困難である。また、火入れや刈取りといった人為的管理によって維持されているヨシ原は,その攪乱の程度によって節足動物の群集構造に違いが生じていることが既往研究より明らかになっている。

本研究では、ヨシ原の食物網の全体像を把握するため、窒素炭素安定同位体比分析および微量元素分析を用いた。鳥類(羽毛)・両生類・無脊椎動物・植物・泥炭土などについて安定同位体比分析を行なった結果、ヨシやスゲ類などC3植物を起源とする生食連鎖系と、その腐植物を起源とする腐食連鎖系、更に水中のデトリタス起源と考えられるもう一つの腐食連鎖系が見出された。小型鳥類や肉食性節足動物などの高次消費者はこれらの連鎖系を広く利用しているが、同属種間においてもδ13Cの値が異なるなど、種レベルでの餌資源分割の可能性が示された。また、これらの生物に含まれる微量元素を分析したところ、いくつかの重金属元素で食物連鎖に伴う段階的な濃縮が見られた。

さらに、人為的管理がこの食物網に与える影響を評価するため、火入れ・刈取り・放置区の全てに生息する共通種の生体内元素を比較した。結果、同種間において各区で異なるδ13C値を示したことから、管理のあり方によって利用できるエンドメンバーが変化していると推測され、人為的管理がヨシ原の食物網および物質循環に大きく影響を与えることが示唆された。


日本生態学会