| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-126 (Poster presentation)

ブナ孤立林におけるブナ種子生産量の年変動と稔性

井田秀行(信州大・志賀自然教育研/山岳総研)

ブナ孤立林では近親交配や自家受粉が増え,健全な種子生産が困難になっていると考えられるが実態は不明である。本研究では保全すべき森林の規模や管理のあり方を提言するため,ブナの孤立林分と大面積林分を対象に,種子の生産特性および稔性を比較し,林分の断片化がブナの種子生産に及ぼす影響を検討した。

調査地は長野県中北部域の7サイトである。内訳は,周囲数kmにブナ林のない小面積(1ha未満)の3林分(小サイト:飯山大深,聖山,牛伏寺),30ha以上の大面積でブナが優占する2林分(大サイト:鍋倉山,カヤの平),両者の中間程度の2林分(中サイト:飯山柄山,大洞)である。これらにおいて,7〜14年間(1998〜2011年)調べた種子の生産量および稔性を比較した。各サイトでは,開口面積0.5平方mの種子トラップを4~27基設置し,開花期から種子落下期まで1〜2ヶ月ごとにブナの繁殖器官を回収した。種子は"充実","鳥獣害","虫害","未熟","菌害","シイナ"の6つに分別し,サイトごとに各年の単位面積(1平方m)当たりの数を算出し,その値により比較検討を行った。

その結果,豊作年だった2005年と2011年の充実率(総種子数に対する充実種子の割合)は,大・中サイトが約5〜6割と,小サイトでの3割未満より高くなっていた。未充実種子では全サイトでシイナと虫害がその大半を占めていた。シイナ率では大・中サイトが1〜2割であったのに対し小サイトが4〜7割と高く,虫害率でも小サイトの牛伏寺で約4割と特に高くなっていた。

以上から,ブナ孤立林分では大面積林分に比べ充実率が低下することが明らかとなり,断片化による林分サイズ減少はブナの繁殖にマイナスの影響を与えると考えられた。孤立林分では,少ない花粉流動が近親交配や自家受粉をより多く発生させるだけでなく,虫害も発生しやすい状況にあると推察される。


日本生態学会