| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-135 (Poster presentation)
ヤクスギ林,すなわち屋久島のスギ天然林は,江戸時代前後を通じて強度な伐採を受けている。そのため,現在の林分の多くは,当時の伐採を免れた数少ない老齢なスギと伐採後に更新した多くの若いスギが混在する林相を呈している。また,林内には,当時の伐採の切株がほとんど腐朽せずに残っている。数百年前の林分構造を示す手掛かりが残るこのような森林は日本国内では希少であり,ヤクスギ林は人為の伐採活動の影響を長期的に評価できる重要なサイトといえる。そこで本研究では,ヤクスギ林の中に分散して設けた5箇所の固定試験地(計4.8ha)でスギ切株の計測と25年以上に及ぶ全生立木のモニタリングを行い,伐採以前の林分構造と現在の遷移段階の推定を行った。その結果,スギ切株には,伐採活動以前から生育していたと推定されるサイズの大きな集団と,伐採活動後に更新し,再び伐採されたと推定されるサイズの小さな集団の2グループが存在すると判断された。また,現在の林分では,スギやヤマグルマなどの高木種が一貫して数を減らし,一方でハイノキやサクラツツジなどの低木種が増加する傾向がみられた。そして過去と現在を比較すると,江戸時代の伐採以前は,大径のスギが現在の本数より低い密度で点在するかなり疎な林相であったと考えられた。現在の林分では,スギを含む針葉樹の間で自己間引きが生じており,今後も最多密度曲線に沿って本数を減らし,風倒などの撹乱を受けた場合にはさらに低密度化が進むと推測された。一方,このような遷移の進行状況には試験地間で差があり,それは立地環境や過去の伐採強度に拠るものと考えられた。