| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-137 (Poster presentation)

本山寺の森(暖温帯針広混交林)における稚樹個体群の組成と更新

*松井淳, 吉岡真也(奈良教育大・生物), 今村彰生, 佐久間大輔(大阪市立自然史博物館), 常俊容子(大阪自然環境保全協会)

高槻市本山寺の裏山北斜面(34°55’N,135°37’E,標高500m)には、1978年に大阪府自然環境保全地域に指定された針広混交林がある。胸高直径5cm以上の毎木調査により指定当時の林相(高槻市教委 1979)と比較したところ1)ツガやアカガシなどの優占種は大径木が増え、2)森林全体としての現存量は大幅に増加し、3)幹数ではリョウブ、クマノミズキなどの落葉広葉樹が著しく減少し、ヤブツバキ、ヒサカキ、シキミ、ヤブニッケイなどの常緑広葉樹が増えたこと、4)リョウブは剥皮率が非常に高く、近年の北摂地域におけるニホンジカ生息域拡大の影響が窺われることなどがわかった。

今回は、下層木の動態に注目し2011年に1.3haの調査区で高さ50cm以上、胸高直径5cm未満の稚樹(および低木)の種名、位置、樹高、胸高直径を記録した結果を報告する。

32種3606本の稚樹と低木が確認された。内訳は常緑広葉樹が14種3258本(90.3%)、落葉広葉樹が13種262本(7.3%)、針葉樹が5種86本(2.4%)であった。

成木の幹数増加が顕著だったヒサカキ、ヤブツバキ、シキミは、稚樹の幹数でも上位3種を占め総幹数の72.3%に達した。優占種であるアカガシとツガの稚樹は多くなかった。落葉広葉樹で本数が最多だったのはツツジ科低木のコバノミツバツツジ(118本)であり、成木が激減したリョウブ、クマノミズキの稚樹はそれぞれ2本、4本と衰退傾向が顕著だった。さらに落葉広葉樹では、ヤマザクラ、コシアブラ、アオハダをはじめ成木は確認されるが稚樹が見つからないものが16種あった。

以上のように森林下層でもシカの不嗜好種である常緑樹の優勢と落葉樹の後退が確認され、遷移の過程に近年のシカ採食圧が加わった変化が起こったと説明できる。


日本生態学会