| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-177 (Poster presentation)
陸域生態系は地上と地下の相互作用で構成され、これらは密接に関連する。植物は地下で微生物と共生関係を持ち、これらの共生微生物から供給される資源をもとに形質を変化させる。植物を利用する昆虫の生存や成長は、植物形質に強く依存するため、昆虫の個体群動態を理解する上で、微生物の効果を考慮する必要がある。一方で、地上の昆虫は土壌に排泄物を添加することで、地下の物質動態を変化させる。例えば、アブラムシは糖分に富んだ甘露を土壌に落とすことで土壌の無機体窒素の量を変化させる。一般に土壌は炭素資源が不足しており、甘露が入ることで自由生活型の微生物が増える。その際に土壌の無機体窒素が微生物に取り込まれ、植物が吸収できる窒素が減少する。このように地下の共生微生物は地上の昆虫に影響を与え、昆虫は排泄物を介して地下の栄養塩動態に影響を及ぼす。生態系が維持される機構を明らかにするためには、地上と地下の相互作用を連結させて考察する必要があり、そのためには地上の昆虫が排泄する物質に及ぼす地下の共生微生物の効果を調べなければならない。本研究では、ダイズー根粒菌—アブラムシの系を用いて、地下の根粒菌が地上のアブラムシの甘露にどのような影響を及ぼすかについて調べた。アブラムシの個体数は、根粒が着生しないダイズ(R-)に比べて根粒が着生したダイズ(R+)では1.3倍多かったが、これらの間に有意差はみられなかった。これらのコロニーが1日あたりに排泄する甘露の糖を調べた結果、R-植物よりもR+植物に寄生したアブラムシでは、スクロースを2.7倍、トレハロースを4.7倍多く排泄した。以上の結果は根粒菌がアブラムシの甘露成分を変化させることを示し、その効果によってアブラムシが引き起こす生態系プロセスが改変される可能性がある。