| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-184 (Poster presentation)

海藻がアサリに与える影響: 底生微生物を介した間接効果

*宮本康,畠山恵介(鳥取県・衛環研), 山田勝雅(国環研),浜口昌巳(瀬戸内水研)

パッチ状の分布は様々なハビタットで普遍的に見られる個体群の空間構造である.こうした分布様式は,環境の異質性・撹乱・種間相互作用などにより生み出される.本発表では,中海における二枚貝アサリのパッチ状分布が,海藻の強い影響下にあることを明らかにした野外調査・実験の結果を紹介する.

中海のような内湾性の海域では,富栄養化に伴う海藻の大繁茂が世界的に生じている.そして,繁茂した海藻は海底の貧酸素化を生じ,その結果,二枚貝をはじめとするベントスの大量死を導くことも報告されている.そこで,中海において海藻の有無を人為的に操作した野外実験を実施し,海藻が海底の酸素環境とアサリの生残に与える影響を評価した.その結果,海藻は高水温期にのみ,ごく短期間に海底を貧酸素化させること,それに伴いアサリの大量死が生じることが明らかになった.では,こうした水温依存的な海藻の効果はなぜ生じるのか?海藻に覆われた海底では,微生物の餌となる有機物の負荷が高いことに加え,高水温期には微生物の活性が高まる.したがって,海藻がアサリの生残に与える影響は微生物を介した間接効果であり,水温依存的な海藻の効果は微生物の活性の温度依存性であると言える.

一方,海藻の下での貧酸素化は高水温期にのみ生じるものの,常に生じるとは限らないことが野外調査より明らかになった.海藻は一ヶ所に留まる限り必ず貧酸素化を生じさせる半面,風や潮汐の影響で海藻自体が容易に移動する.こうした確率論的な海藻の移動が,海藻の下で貧酸素化が常に生じるとは限らない原因であることが示唆された.

以上の結果は,中海におけるアサリのパッチ状分布が海藻の強い影響下にあること,そして,アサリが生残できるパッチが確率論的に決まるため,固定したソース・シンク構造が生じにくいことを示している.


日本生態学会