| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-190 (Poster presentation)
シカの保護管理計画において、植生の多様性を保つのに適切なシカの個体数密度がどの程度であるのかは重要な情報の一つである。シカの密度と植生との関係については、生息密度が異なる場所での調査や、シカを囲い込んで密度を固定した調査などが行われてきているが、十分な情報は得られていない。近年、シカの採食行動などから、シカの影響は生息密度だけでなく、具体的な影響はむしろ利用強度によって変わってくる例が知られており、シカの影響を考える上で利用強度の影響について十分に把握することが重要と考えられる。筆者は、防鹿柵を開閉することで利用強度を調整して、シカが植生に及ぼす影響を調べてきている。今回は、経年変化について報告する。
調査地は京都大学芦生研究林上谷の野田畑湿原と呼ばれる開放地で、そこに6m×6mの防鹿柵を5つ設置した調査区を設け、6~9月の夏季の間、閉鎖区と開放区(対照区)のほかに月に2日、4日、 8日、16日だけ開放する4処理区を加え、そこに付加される糞塊数をカウントし、9月に植生の変化を被度によって把握した。防鹿柵の設置は2007年であるが、2009年から一定の基準で糞塊調査と植生調査を行ってきている。
シカの影響を種数で見ると、利用強度が小さいと種数が多い傾向は見られるものの、明確な差異は見らなかった。その状況は4年間にほとんど変わらず、差異が拡大する傾向も見られなかった。Shannon-Wienerの多様度指数H’は、利用強度が小さいほど高くなったが、4年間にその違いが拡大するなどの一定の傾向は見られなかった。しかし、種構成は利用強度の違いに反応して大きく変化した。開放地の草本群落へのシカの影響は、種間競争、採食耐性などの組み合わせで変化するため、種数や多様度指数などで評価するだけでなく、種構成の変化を把握することも大切であることが示された。