| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-194 (Poster presentation)
いくつかの寄生生物は宿主の行動を変化させる。寄生者による宿主の行動変化は、宿主と他の生物個体の関係に影響を及ぼす可能性がある。この影響を調べることは、寄生生物が生態系に与える影響を理解する上で重要である。
マルハナバチタマセンチュウは、マルハナバチの女王を不妊化させる寄生虫である。感染女王は営巣せず、夏まで採餌を続ける。間接的な証拠から、感染女王は移動分散しなくなることも示唆されている。このような感染女王の行動変化は、夏に、局所的に感染女王が多い地域を生み出し、非感染女王のコロニーから輩出される働きバチとの花資源競合を引き起こす可能性がある。しかし、感染女王の存在が、非宿主である他の訪花者に与える影響は調べられていない。
そこで本研究は、マルハナバチ女王のタマセンチュウ感染率、採餌個体のカースト構成比、それらの空間分布および季節変化、ならびに非宿主である働きバチの採餌行動と体サイズを調査した。調査は北海道上川郡の、セイヨウオオマルハナバチが優占する複数の地点で行った。
その結果、概して女王の割合は春に高く、夏に減少するが、春に感染が確認された場所の近くで、夏になっても女王が非常に高い割合を占める場所がみられた。夏に捕獲された女王は、ほぼすべて感染していた。夏に女王(主にアカツメクサを訪花)が多い場所は、アカツメクサの残存蜜量が少なく、働きバチによるアカツメクサでの盗蜜訪花が多く、働きバチの体サイズが小さかった。この場所から女王を除去すると、アカツメクサの残存蜜量が増え、働きバチのアカツメクサへの訪花が増加した。
以上の結果から、マルハナバチタマセンチュウがマルハナバチ個体群のカースト構成を変化させることで、カースト間の花資源競合が生じ、働きバチの体サイズや採餌行動に影響が及ぶことが示された。