| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-204 (Poster presentation)

雌による精子の選択から生じる隠蔽された生殖的隔離:サッポロフキバッタの事例

*土屋香織,菅野良一,秋元信一(北大・農)

体内受精を行う動物において,雌が交尾後に雄の精子を精子貯蔵器官まで移送するか否か,その精子を受精に利用するか否かに関して雌による精子の選択と操作が行われている可能性がある。このような雌による配偶者選択は,集団内での交尾・繁殖形質の一方向的な進化を引き起こし,異所的な集団間での生殖的隔離さらに種分化を生み出す要因となる可能性がある。しかし,雌による精子の選択や操作が行われていても,交尾そのものは正常に行われているように見えるため,このような隠蔽された生殖的隔離を判別するには,精子が実際に移送されているかどうかを見なければならず,これまでほとんど認識されてこなかった。

研究対象であるサッポロフキバッタでは交尾の際に雌が激しく抵抗する傾向があり,その交尾拒否力は地域集団によって大きく異なる。交尾拒否の激しい雌が見られる集団の雄は交尾を試みる交尾活力が高く,逆に,交尾拒否の弱い雌が見られる集団の雄は交尾活力が弱いことが明らかになっている。さらに,交尾活力の強い集団の雄と交尾拒否力の弱い雌を掛け合わせると,集団内の交配よりもしばしば高い頻度で交尾が起こることが報告されている。しかし予備実験から,交尾行動自体は集団内交配と同様に経過するにも関わらず,雌は異所的集団の雄の精子をほとんど受け取らないことが示されている。

本研究では,2つの地域集団を用いて集団内・集団間交配を行い,雌が受け取った精子数を比較することで,隠蔽された生殖的隔離の強度を調べた。本種雌の交尾器には顕著な地理的変異がある明らかになっているため,集団間での交尾器の差異を雌が認識して,精子の受け取りを決めている可能性がある。交配させた雌雄の生殖器形質を計測し,雌が受け取った精子数との関係を調べることで,生殖器形質の差異が隠蔽的な生殖的隔離の要因として働いているか検証した。


日本生態学会