| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-220 (Poster presentation)

日本の天然林の多様性指数

正木隆(森林総研)

日本の天然林の多様性指数

正木隆(森林総研)

Hubbellの統合中立理論は、θ(メタ群集サイズ×種分化率)とm(移入率)によって局所群集の種多様性が決まるとする。mは調査プロットの面積に依存する一方、θの値は調査面積に依存しないため森林の多様性を評価するのに適していると演者は考えている。

本発表では、日本全国の老齢・成熟した天然林でθとmを推定し、θの変動要因を分析する。用いたデータは、森林総研の長期大面積プロットと環境省の事業「モニタリング1000」プロットの合計62セットである。ここではTeTameでの推定計算が収束した38プロットの結果を用いる。

38プロットのうち、10プロットではθの推定の当てはまりが悪かった。これらはスギやヒノキの針葉樹天然林、ほぼブナのみが優占する冷温帯林、あるいはカンバ類とナラ類の混交した二次林であった。これらは過去に選択的な伐採がおこなわれたか、伐採後間もない発達途上にあり、中立性が保たれていないものと推測された。

残りの28プロットについて、気象条件(気温、降水量)、地理条件(緯度、経度)、群集の発達度(全断面積合計、群集内最大木の胸高直径)、群集の安定性(更新木を欠く樹種の断面積合計、およびその全断面積合計に占める比率)を説明変数、θを目的変数として一般化線形モデルを構築し、変数選択をおこなった結果、多様性指数θは平均気温とともに増加する傾向を示し、全断面積合計とともに減少する傾向を示した。実測値がこのモデルによる推定値よりも過大だったのは、ウダイカンバ、コナラ、アカシデ、アサダなどが優占する二次林的組成の落葉温帯林だった。一方、θの実測値が過小だったのは小笠原の常緑樹林で、大陸という種のソースから隔離されてからの時間が反映されたものと考えられた。

以上の結果から、θは主に平均気温によって左右され、同時に歴史性を反映する指標であると考えられた。


日本生態学会