| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-223 (Poster presentation)

ブナ林を中心とした菌類・植物共生網の解析と生物相互関係データベース

*細矢 剛,保坂健太郎,奥山雄大,大村嘉人,樋口正信,門田裕一,齊藤由紀子

生物の多様性が維持され、生み出される背景には相互関係が重要である。菌類は二次生産者として物質循環へ関わるとともに、生きた生物とも様々な関係を結び、とりわけ植物とは関係が深い。そこで本研究では、標本・文献・分子情報などを総合し、菌類と植物が織りなす共生ネットワーク(共生網)のあり様を可視化するための予備的な検討を行なうことを目的にブナ林を重点的に調査した。ブナ林は日本の冷温帯の代表植生であり極相林として様々な動植物相が知られており、標本も多数採集されている。

文献データ、科博の標本データに加え、葉圏および内生菌の菌類を分離して分子データをもとに同定した実験データの合計3000件以上を収集し、ブナと菌類の間の相互関係を解析した。菌類データは約1450件で、このうち種レベルの同定がなされていて、ブナの部位(根・葉・枝を含む材の区別)データがあるものは約200種で、このほか20種を超える地衣類があった。文献的に知られている種のうち、標本が保管されているのはわずか20種で、一層の実証的な研究が必要とされる。部位別にみるとブナ殻斗、葉、材・その他のそれぞれから4、32、170種が得られた一方、材と葉の共通種は4種にとどまり、部位による基質選好性が見いだされた。葉および根から分離された菌の分子系統解析の結果では、葉からは子実層を裸出しない子嚢菌類が主に分離されるのに対し、根からは子実層を裸出する子嚢菌類が多く出現する傾向があり、乾燥への適応が考えられた。

次に、上記で得られたブナに発生する菌について、ブナ以外のホストを文献データを基に調査し、これらを含めてCytoscapeにてネットワーク解析した。その結果、1232ノード、1680エッジよりなるネットワーク図が得られ、この中にはハブとなって複数の生物に関わる複数の菌類・植物の存在が示された。


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