| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-252 (Poster presentation)
河川生態系は,多様な生態系機能やサービスをもたらす一方で,人間活動の影響を受けやすい生態系である.特に近年,人間活動による土地利用,及び河川への過剰な栄養塩負荷が生態系へ影響を及ぼすことが懸念されているにも関わらず,フィールドワークに基づく科学的な検討が十分であるとは言い難い.そこで本研究では,各種安定同位体比により獲得される生態系情報を活用し,土地利用が河川生態系の食物網構造へ及ぼす影響を具体的に明らかにすることを目的に調査を行った.
生物の採集,及び採水は,和歌山県中北部を流れる有田川(全長: 94km,流域面積: 468km2)の流程5地点(源頭域から河口域)で2011年9月と2012年1月にそれぞれ実施した.有田川の上流域は森林が9割以上を占め,中〜下流域は果樹園(ミカン畑),及び宅地が広がっている.水質の測定にあたっては各種濃度ベースのモニタリングに加えて,硝酸の窒素・酸素安定同位体比を脱窒菌法から測定した.また,得られた水生昆虫,及び魚類の生物試料は,炭素・窒素安定同位体比を測定し食物網構造を明らかにした.
いずれの季節においても,窒素濃度,及び硝酸の窒素安定同位体比は流下過程で上昇し,土地利用に起因する人為起源の窒素負荷が明瞭に見られた.また,付着藻類の窒素安定同位体比は,硝酸の窒素安定同位体比とよく一致し,上流から下流に従い上昇していた.また,付着藻類を餌源とする水生昆虫,及び魚類の窒素安定同位体比も流下過程で上昇していた.以上のことより,中〜下流域で供給される人為起源の硝酸がその地域の一次生産者に利用され,食物網へ転送されていることが明らかとなった.