| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-254 (Poster presentation)
南極に生息するクマムシ群集については数多くの報告があるが、それらのほとんどは亜南極や海洋性南極地域の陸上環境におけるものである。昭和基地が位置する大陸性南極と呼ばれる、南極でもより環境の厳しい地域ではクマムシについての報告は数少なく、中でも湖沼における報告はほとんどない。クマムシが水域環境でも数多く生息していることは知られており、海洋性南極のシグニー島とキングジョージ島の湖沼からは、合わせて16種が報告されている。昭和基地周辺の陸上環境ではこれまでに計8種のクマムシが報告されているが、水域環境については1湖沼でAcutuncus antarcticusとDiphascon ongulense の2種が報告され、別の湖沼でA. antarcticusとD. pingue の2種の生息が示唆されているのみである。このように、昭和基地周辺の湖沼に生息するクマムシの多様性は未だ明らかとなっていない。
本研究では、第49次日本南極地域観測隊の夏期間中の2008年1月にリュツォ・ホルム湾の東岸にあるスカルブスネスで試料採取を行った。7湖沼において重力式柱状採泥器を用いて湖底植生を採取、2.5mlチューブに入れ-70℃で保存し、日本に持ち帰った。それぞれの試料は常温に戻し融解させた後、実体顕微鏡下で観察しクマムシを集めた。クマムシはホイヤー液を用いて固定し、位相差顕微鏡を用いて形態観察による同定を行った。スカルブスネスの7湖沼の湖底からはA. antarcticus、Hypsibius cfr dujardiniとPseudechiniscus cfr suillusの3種が認められた。A. antarcticusはほとんどの湖沼から検出され、P. cfr suillusは1湖沼のみに見つかった。それぞれの種の南極における分布と、湖沼環境との関連性を議論する。