| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-257 (Poster presentation)
人為的影響によってサンゴ礁生態系の衰退が危惧される現代において,魚類の群集構造に影響を与える環境因子を明らかにすることは,サンゴ礁生態学の主要な目的のひとつである.また,生物と環境の関係性を研究する際には,同じ生態系機能を持つ種の集合である“機能群”の多様性を考慮することは重要とされている.サンゴ礁魚類では,これまで主に食性だけで機能群を分類しており,体サイズを分類基準に含めた研究は極めて少ない.本研究では,食性と体サイズによって分類した機能群の構造に影響を及ぼす環境因子を検討した.
2011年夏季沖縄本島の沿岸域多点のサンゴ礁斜面上(水深約7m)において魚類相のラインセンサスを行い,種・個体数・全長のサイズクラスを記録した.同時に,物理的(岩盤・礫・砂・泥の基質の比率,地形の凸凹度,流れの強さなど),化学的(窒素安定同位体比,炭素率,粒状有機態炭素),生物的環境因子(各形状のサンゴや海藻などの付着生物の被度)を調査した.環境因子を説明変数,機能群構造を応答変数として冗長性分析を行い,これらの関係性を可視化した.その結果,体サイズが小さい機能群ほど環境因子の影響を受けやすく,全長が10cm以下の小型魚類や幼魚では,基質が主に岩盤質であったり流れが弱かったりする礁斜面を好む傾向があった.プランクトン食魚類や中型以上の藻類食魚類では,流れが強く地形が複雑な礁斜面を好む傾向があった.さらに,各サイズクラスの魚食性魚類の分布は,餌生物となる自分より一回り小さい魚類の機能群の分布によって決まっている可能性が推測された.以上のように,魚類の群集構造をより詳細に理解するためには,食性だけでなく体サイズの観点からも機能群を分類して解析を行うことが必要であると示唆された.