| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-262 (Poster presentation)

沖縄島サンゴ礁群集形成機構解明のための4つのアプローチ: その四 定住性捕食者のバイオマーカーからみる食物網

*坂巻隆史(琉球大・亜熱帯),藤林恵(東北大・工),宮岡勇輝,河井崇, 鈴木祥平(琉球大・亜熱帯)

陸域からの物質流入は,様々な沿岸生態系の生物地球化学的環境や食物網構造に影響することが各地で報告されている.サンゴ礁海域では,人為起源の栄養塩流入がサンゴ優占の系から藻類優占の系へのいわゆるレジームシフトを引き起こす要因とされる一方,そのサンゴ礁域の食物網構造全般に及ぼす影響についての知見は極めて限定的である.本研究では,陸域からの窒素流入がサンゴ礁海域の食物網構造に及ぼす影響を検討した.2011年夏季沖縄本島の沿岸域多点のサンゴ礁斜面上(水深約7m)において定住性で比較的高次の捕食者と考えられるニジハタ・ヤミハタ・カンモンハタの3種を捕獲し,炭素・窒素安定同位体比および脂肪酸組成の分析を行った.さらに,人為的な窒素流入の指標として各地点の海藻類を採取し窒素安定同位体比を分析した.その結果、ヤミハタおよびカンモンハタの窒素安定同位体比は海藻のそれと有意な正の関係がみられ,人為起源の窒素がこれらのハタによって同化されていることが示された.これら2種のハタについては,肉食・植物起源脂肪酸の同化指標とされる18:1ω9/18:1ω7比が海藻の窒素安定同位体比と有意な負の関係を示し,人為起源の窒素流入増加にともない藻類起源脂肪酸の同化が増加していることが示唆された.一方,ニジハタの窒素安定同位体比や18:1ω9/18:1ω7比は海藻の窒素安定同位体比と有意な関係を示さず,人為起源の窒素流入が餌料を介してこのハタには同化されていないことが示唆された.以上より、人為起源窒素流入に対するハタ種間での異なった応答が明らかになるとともに,そのサンゴ礁食物網構造への有意な影響が示唆された.


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