| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-302 (Poster presentation)

食物をめぐる野生ジャワルトン (Trachypithecus auratus) とルサジカ (Cervus timorensis) の種間関係

*辻大和,Islamul Hadi, Kanthi Arum Widayati, Bambang Suryobroto, 渡邊邦夫

インドネシア・ジャワ島パンガンダラン自然保護区において、ジャワルトン (Trachypithecus auratus) が樹上から落とした植物を同所的に生息するルサジカ (Cervus timorensis) が採食する行動『落穂拾い行動』を調査した。2010年11月から2012年12月まで断続的に現地を訪問し、計5回、808時間の行動観察を行った。『落穂拾い』した植物と、シカ本来の食物である草本類を採集し、単位重量当たりの栄養価を評価した。さらに『落穂拾い』中の樹冠下の落下物の量、ならびに草本類の量を評価した。

『落穂拾い行動』は調査期間中に93回観察され、彼らはルトンが樹上から落とす植物のうち22種25品目を採食した。その多くは葉だった。落穂拾い行動は2011年7-8月にもっとも頻繁に観察され(0.24回/時間)、2011年11-12月にもっとも頻度が低かった(0.05回/時間)。同じ月でも年により発生頻度が異なり、降水量の少ない年に高い頻度で『落穂拾い』が観察された。落穂拾いに集まるシカの平均個体数は2.5頭と、通常と変わらなかったが、まれに10頭近くのシカが集まるときもあった。ルトンが落とす植物の単位重量あたりのカロリー含有量およびタンパク質含有量は、シカの本来の植物である草本類のそれと比較して、いずれも高かった。さらに、落穂拾い中の落下資源の単位面積あたりの重量ならびにカロリー量は、同面積当たりの草本類のそれとくらべて高かった。

以上より、『落穂拾い行動』は主として降水量から影響された草本類の利用可能性の時間的変異に伴うシカの栄養状態の変化によって引き起こされる現象だと考えられた。


日本生態学会