| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-307 (Poster presentation)

擬装か隠蔽か?アゲハの幼虫における体色変化の捕食防御適応

*鈴木俊貴,櫻井麗賀,吉川枝里(立教大・理)

餌生物が捕食者からの攻撃を防ぐ手段に,背景に体色を溶け込ませる隠蔽(crypsis)と餌でない対象物に擬態する擬装(masquerade)がある。隠蔽は体色を背景に似せることで捕食者からみつかりにくくする適応であり,擬装は捕食者にみつかっても他の対象物であると誤認識させることで捕食を回避する適応である。アゲハの若齢幼虫は鳥の糞にそっくりな色彩パタンで擬装するが,終齢幼虫になると隠蔽的な緑色に変化する。小さな若齢幼虫は糞に擬装することで隠蔽よりも高い捕食防御を成し遂げるが,終齢幼虫ではその大きさゆえに糞に擬装することができず,そのため隠蔽色を呈している可能性がある。本研究では,このアイデアを野外実験により検証した。糞色型,緑色型の幼虫モデルを大小それぞれのサイズで作成し,アゲハの幼虫の食草であるミカン類の木に設置した。約7時間後,各モデルが鳥による攻撃を受けたかどうか確認した。若齢幼虫を模した小さなモデルは,糞色型よりも緑色型の方がより高頻度で攻撃を受けた。一方,終齢幼虫を模した大きなモデルでは,緑色型よりも糞色型の方がより攻撃を受けた。どちらの色彩でも大きなモデルの方が小さなモデルよりも攻撃される頻度が高かったが,その傾向は緑色型よりも糞色型の方で著しかった。これらの結果から,体サイズの増加に伴い徐々に防御効果が薄れる隠蔽に対して,擬装はその対象物の大きさから逸脱すると一気にその効果を失うことが示唆された。本研究により,隠蔽と擬装の効果が餌生物の体サイズに応じてシフトすることが初めて実証された。


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