| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-308 (Poster presentation)
警告色とは,まずさなどと関連した目立つ色彩のことをいう.警告色をもつ動物は,捕食者に以前経験したまずい餌と同じように自分がまずいものであることを認識させる必要がある.なぜなら捕食者は,以前経験した餌の体色を手掛りにまずさを学習し,類似した餌への攻撃を回避するからである.結果として警告色は,互いに似通う方向に進化すると期待される(正の頻度依存選択).本発表では,鬱蒼とした琉球列島の林床に生息するイモリの赤黒の腹模様(警告色)を対象に,捕食圧の緩和がひきおこす警告形質の動態について説明する.まず私達は,本種が警告色のような色を介したシグナル伝達に不適な光環境に生息していること,本種が捕食圧から“ほぼ”解放されていることを明らかにした.またイモリの警告色のシグナル強度は,遺伝形質である赤色部位の面積(シグナルサイズ)と,可塑的な形質である赤色細胞の反射率(体色の大部分を占める黒色細胞とのコントラスト)によるが,本種では,シグナルサイズに著しい個体群内変異があること,コントラストが低下していることが明らかになった.これらの結果は,捕食圧からの解放にともない,警告色のシグナルサイズにかかる頻度依存選択が緩和していることを示唆している.また興味深いことに生息環境がほとんど変わらない小島嶼個体群間で,顕著なシグナルサイズの変異がみられた.これらの小島嶼個体群の遺伝的多様性を解析したところ,選択圧に対して中立的なマイクロサテライト遺伝子座において,その多型性が低下していることも明らかになった.以上の結果は,本種の警告形質(シグナルサイズ)が選択圧とは“ほぼ”中立的な形質としてふるまうことで,その多様性が維持されている可能性を示唆している.