| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-397 (Poster presentation)

亜高山帯植生におけるニホンジカ摂食からの保全優先度の検討

*長池卓男,飯島勇人(山梨県森林研)

ニホンジカによる高山・亜高山帯植生への過大な摂食の影響が各地から報告されている。その総合的な対策には、個体数管理・生息地管理・防除が必要であるが、高山・亜高山帯においては遠隔地にあることなどから、個体数管理・生息地管理を行うには現状では多くの困難が伴う。したがって、植生防護柵などの防除中心の対策が行われている。ニホンジカによる植生への摂食が近年顕著になりつつある南アルプス北岳亜高山帯において、その影響の2年間の変化を明らかにし、植生保護柵設置の際などの保全優先度について考察した。調査は、標高2200~2800mまでの通称右俣および草すべりの登山道沿いでダケカンバ林および高茎草原を対象とした。登山道沿いの約30mおきに長さ20mの調査区を設定し(ダケカンバ林16調査区、高茎草原26調査区)、登山道の両側に5m間隔で1×1mの植生調査区を設置した(1調査区あたり10植生調査区。合計420植生調査区)。2010年および2012年に、各植生調査区に出現した植生高2m以下の維管束植物種を記録し、ニホンジカによる摂食の有無も記録した。摂食率(各調査区の全出現種の出現頻度に占める摂食されていた種の出現頻度の割合)は両年ともダケカンバ林で高かった。2012年は、両植生タイプの調査区平均でみると、摂食率は低下しており、高茎草原でより低下していた。しかし、調査区によっては摂食率が上昇しており、調査区の状況によって摂食率の変化が左右されることが示唆された。また、出現種数・頻度や種多様度( H’)は、両植生タイプで減少していたが、ダケカンバ林でより減少していた。非嗜好性植物種(イネ科、カヤツリグサ科、シダ)の優占度は、ダケカンバ林の方が高く、2012年は両植生タイプとも増加していた。これらの結果を基に、植生保護柵を設置する際の保全優占度を検討する。


日本生態学会