| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-404 (Poster presentation)
里山は農林業など人と自然の長年の相互作用を通じて形成された自然環境であり、多様な生物の生息環境としても重要である。しかし里山の管理が放棄されると遷移が進み里山風景が失われる。そのような地域では現在、間伐などの手入れを施して「昔ながら」の風景を守ろうとする動きが始まっている。しかし、このような景観保持の目的による森林管理は生態系にどのような影響を与えているのかはよく分かっていない。
生態系からの恩恵(生態系サービス)は水や空気の清浄作用、気候の調節、燃料としての利用、遺伝子資源の保存、土壌栄養塩類保持、倫理的な価値など多面的であり、これらを複合的に評価することが重要である。本研究ではこの概念を用いて、京都府と大阪府の府境に位置するポンポン山にて、景観維持のために管理されているアカマツ林、放棄二次林、そして原生林に近い天然林の異なる三つの林分を比較評価する。多様な生態系サービスを評価するために樹種数、現存量、有用樹種数、下層植生、枯死率、土壌栄養塩量、土壌硬度、土壌含水率、CN比、開空度などを指標とし、管理されている里山から放棄二次林を経て原生林まで遷移していく中で、各サービスがどのように変化するかを追った。
今回の調査ではいくつかの指標間でトレードオフの関係がみられた。例えば、アカマツ林では強間伐が行われているため、開空度、下層植生の種数は最も大きかったが、現存量や成木種数は他の林分に比べて小さくなっていた。一方原生林に近い天然林では開空度や下層植生の種数が他の林分より小さくなる傾向があったが現存量は最大だった。したがって、評価基準によっては管理された里山林よりも遷移が進んだ林分のほうが優れたサービスを提供するため、景観維持の目的のみで管理を行うと生態系サービスが減少する恐れがある。