| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-410 (Poster presentation)

6年間で植生はどう変わったか-シカ密度の異なる3地域の比較-

*幸田良介(地球研),藤田昇(地球研)

近年日本各地でニホンジカの生息密度増加による森林植生の衰退や森林更新の阻害が問題となっている。鹿児島県屋久島においてもヤクシカの生息密度が増加しており、森林への影響が指摘され始めている。一方でどの程度のヤクシカ生息密度で、どのような樹種に影響が生じ始めるのかといった詳細な情報は明らかになっていない。屋久島の貴重な自然を保全するうえでこのような情報を得ることは非常に重要である。そこでヤクシカ生息密度の異なる3ヶ所の森林において6年間の稚樹動態を調べ、ヤクシカが森林植生に与える影響を考察した。

2006年に島内の低地林3ヶ所を調査地として選定し、樹高30-130cmの木本樹種の毎木調査を行った。2009年及び2012年に再調査を行い、各調査地において樹種ごとに生長率、死亡率、新規加入率を計算した。またヤクシカの食痕頻度から嗜好性を判別し、嗜好性グループごとに動態を比較した。

各調査地での樹木個体群動態をみると、ヤクシカ生息密度の最も高かった調査地では、特に嗜好性の高い樹種において高い死亡率や低い生長率、樹木本数の減少がみられた。またヤクシカ密度が中程度の調査地では、2009年までは稚樹動態に大きな変化は見られなかったものの、2009年から2012年にかけて嗜好性が最も高い樹種の個体数が減少するなど、種組成が一部変動し始めていることが明らかになった。一方でヤクシカ密度が5頭/km2程度と最も低い調査地では、6年間を通して稚樹動態に大きな変動は見られなかった。今後は稚樹植生とヤクシカ生息密度のモニタリングを引き続き行っていくとともに、これらの情報を管理目標の制定などに役立てていくことが必要だろう。


日本生態学会