| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-414 (Poster presentation)
ブナ科樹木の種子生産量の豊凶は、それに強く依存したツキノワグマ(以下、クマ)の出没指標となることが報告されている。新潟県では、クマの主要な餌資源の一つであるブナの凶作年に、行政サイドでクマ出没に対する注意喚起が行われる。しかしブナの結実調査は夏以降に実施されるため、注意喚起から9月から迎えるクマの出没ピークまでの時間的猶予は十分とは言えず、クマ出没への対策やクマの保護管理を行う上で、より早期の出没リスク評価が望まれる。本研究では、結実調査よりも早期のクマ出没リスク評価の実現を目指し、ブナの開花状況からみたクマの出没リスク評価の可能性について検討した。
新潟県十日町市の標高約300mのブナを主体とした約80haの里山において、2006年より120個体のブナの開花状況を調査した。7年間の開花率は0~0.91と大きく変動し、変動パターンは県内全域とほぼ同調した。2011年までの6年間の開花率とクマの出没数(目撃・痕跡件数)との関係を見ると、出没のピークを迎える9月以降のクマの出没数とブナの開花率とに負の相関関係が見られた。また2011年までの結果から、ブナの開花率が0.2を下回ると、クマ出没リスクが急増する傾向が見られた。ブナの優占林が比較的広く分布する新潟県において、ブナの開花率がクマの出没リスク予測の指標になることが示唆された。
また2012年のブナの開花率は0であったため、秋のクマ出没リスクが高いことが春の段階で予測された。そこで、県内初の試みとして同年7月に4機関共同の早期の注意喚起を開始した。有効なリスク評価手法の使用と複数機関連携の体制により、早期の注意喚起が実現した。