| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-421 (Poster presentation)

生物多様性の主流化を視野に入れた里山農産物の市場調査

*小西 繭(信州大・SVBL),俵 悠斗(信州大・繊),中川陽平,松村嘉之(信州大院・工),小西 哉(信州大・SVBL)

国土の4割を占める里山は、農生産の場、国土保全、情操教育および生物多様性保全など多様な公益的サービスを我々に提供するが、その里山では過疎高齢化に伴った管理放棄により荒廃が急速に進行している。しかしながら、里山の役割や保全を要する現状は多くの一般市民に浸透しているとは言い難い。本研究では、仮想市場法(CVM)によるアンケート調査により、里山農産物の市場価値ポテンシャルを評価することにより、里山保全の新たな価値を見出すことを目的とした。

調査は2011年12月に実施し、長野県(里山および市街地)と東京都に在住する計2300名を対象とし、紙面およびウェブアンケートを併用した。本里山地域には絶滅危惧種シナイモツゴが生息する。CVMでは「里山が荒廃し、絶滅危惧種の生息地が失われる」というシナリオに対し、そのような事態を避け現状を維持するために表明された募金額を支払意思額(WTP)とした。WTPを従属変数として里山や農産物に関する回答結果との関係性をステップワイズ重回帰分析により調べた。

里山地域では、里山に高い価値を認める住民ほど商品化に意欲的であり、所得に左右されないWTPを表明した。市街地では豊かな里山環境が訪問・購入意欲を促しブランド価値に寄与することが示唆された。市街地住民の8割が里山農産物を安全・安心と感じるのに対し、里山住民は6割にとどまり、生産者は里山農産物のイメージを過小評価していた。市街地住民の7割が里山農産物の購入に意欲的であったが、里山住民の6割は農産物の良さが理解されていないと感じていた。以上より、豊かな生物多様性は農産物の付加価値向上に寄与すること、また里山では保全と資源活用の両立を視野に入れた市場開発の可能性のあることが強く示唆された。


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