| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-423 (Poster presentation)
近年、シカ・イノシシによる農作物被害が激増し、その対策として被害の多い地域では集落防護柵の設置が進められている。しかしながら、防護柵で封鎖できない公道や河川などによって柵が分断された部分(以下、開口部)を通過して集落側の農地へ出没するシカ・イノシシは少なくない。こうした侵入を抑制するために開口部では威嚇装置の設置や柵の折り返し、グレーチングの敷設などによる対策が進められているが、その有効性や効果の持続時間については十分な見解が得られていない。さらに、これらの侵入抑制策は、対象となる野生動物の個体数自体を減少させるものではないため、問題の根本的な解決につながらないという指摘もある。
そこで本研究では、開口部周辺における捕獲実施が集落側への野生動物の出没を減少させる効果があるかを明らかにすることを目的とし、兵庫県多可郡の集落防護柵開口部周辺においてニホンジカ(以下、シカ)を対象に調査を行った。2012年9月から10月までの約2ヶ月間の捕獲期間中に11頭のシカが捕獲され、最初に捕獲された9月22日を境に集落側への出没は大幅に減少した。とくに捕獲期間後半の2週間および最後に捕獲された10月25日から1週間後までの捕獲期間終了後を含めた計3週間は集落側の出没は一度も確認されなかった。捕獲期間後、11月下旬までは2011年の出没傾向と比較して集落側への出没回数が少なかった一方で、それ以降、12月は前年と同程度の出没がみられた。
今回の結果から、開口部周辺における捕獲実施は集落側へのシカ出没に対して一定の抑制効果をもつことが分かった。また、その効果は捕獲期間の後半および捕獲期間後、約1ヶ月間に限定してみられたことから、集落出没個体への対応策を実効性のあるものとするためには、農作物被害の多い時期を含め持続的に防護柵周辺の捕獲を実施する必要があることが示唆された。