| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-429 (Poster presentation)
希少種を含む生態系を持続的に保全するためには、その生態系を維持する機構を明らかにしその劣化を防ぐことだけでなく、保全についての社会的賛同を得ることが不可欠である。そのための方策として、多くの近隣住民に当該生態系に触れてもらい、その魅力や重要性について広く啓発することが挙げられる。それを実りあるものにするためには、来訪者層や有効な生態系の見せ方、見学後の来訪者の意識について十分な検討が必要である。
本発表は、上述の視点から愛知県の湧水湿地を事例として来訪者の属性と見学後の意識を明らかにした。湧水湿地は、貧栄養の湧水が地表を湿潤化することによって形成された、泥炭の蓄積に乏しい小面積の湿地である。対象とした武豊町の壱町田湿地には、シロバナナナガバノイシモチソウやシラタマホシクサなど複数の地域固有種・絶滅危惧種が自生し、県天然記念物に指定されている。2012年の夏季から秋季に設けられた5日間の一般公開日のうち、8月上旬の2日間の来訪者に対して現地でアンケート調査を行い、169名から回答を得た。
来訪者は40代~60代の夫婦や親子連れが中心だった。交通手段としては車利用が圧倒的だった。来訪理由(複数回答)は植物観察が6割を占めたが、散歩散策や環境教育もそれぞれおよそ2割を占めた。満足した点として、ボランティアによる実地解説が多数挙げられた。一方、不満足な点は概して少なかったが、観察路上からしか眺められないこと、湿原環境の悪化への懸念、公開日の少なさなどが挙げられた。
希少生態系を一般公開する上で、実地解説の重要性が改めて明らかとなった。また、課題として、若年層へのPR、多様な来訪目的への配慮、交通手段への配慮、保全のための制限への理解促進などが挙げられた。