| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-444 (Poster presentation)
カワヒバリガイは利水施設等で汚損被害を引き起こす外来付着性二枚貝である。本種は受精後約1日でD型幼生となり、約2週間の浮遊期間を経て基質に定着する。昨年までの研究から、宇治川における本種の浮遊幼生は、前日の天ヶ瀬ダムのダム湖(鳳凰湖)の中層水温が25℃以上で、放流量が70m3/s未満の時に多いことが判明している。また、放流量が約70m3/s以上の時には湖水の滞留時間が1日未満になるため、本種の幼生は湖内に定着できずに流下することが示唆された。従って、放流量の増加によって本種の湖内への定着と汚損被害を減らせる可能性がある。しかし、水資源は有限であるため、放流量を最少にする必要がある。そのため、本種が繁殖を行う時期を正確に予測することが重要である。
宇治川における本種の浮遊幼生密度は、鳳凰湖の中層水温が直前3日間に急上昇(約2℃)した時に増加した。水温上昇は多くの二枚貝の産卵刺激となることが知られており、本種も同様であると考えられる。従って、水温が急上昇した時に放流量を増やすことで、湖内への本種の定着量を効果的に減少できると考えられる。また、殻長組成と文献から、鳳凰湖において、本種は成熟に約2年を要すると推定されたため、2010年に多くの浮遊幼生が確認された日の前日を起点、基準水温を10℃として、2012年に浮遊幼生密度が高くなった日の前日までの有効積算温度を算出した。その結果、本種の産卵に要する有効積算温度は約5400日度であると推定された。この値と2012年の水温を用いて、2011年に生まれた個体の産卵日を予測した。その結果、産卵日は2013年6月21日、7月9日、8月5日頃と予測された。今後、本年の水温を参照しつつ有効積算温度からの産卵日予測の可能性を検証することによって、放流量を増やす期間をより早期に決定できる可能性を検討する。