| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-447 (Poster presentation)
小笠原諸島に侵入した特定外来生物グリーンアノールの捕食によって、母島の昆虫群集は大きな被害を受け、既に絶滅したと考えられる種も存在する。環境省は2008年より母島新夕日ヶ丘地域における約2haの二次林と草原において拠点防衛型の防除を開始した。フッ素樹脂シートを用いた遮断フェンスと粘着トラップを組み合わせた手法により、数か月のうちにアノールの密度は10%以下となり、その後も低密度の状態を維持している。
アノールの密度を低減した際の昆虫類の回復状況を把握するため、昆虫類の生息密度に関してモニタリングを実施した。森林に生息し飛翔力がない小笠原諸島固有のハハジマヒメカタゾウムシ(Ogasawarazo mater)の柵内の生息密度は、防除開始時には柵外と同様であった(2008年:0.05個体/trap/day)が、その後は柵外に比べて顕著に増加した(2012年:0.8個体/trap/day)。また、草原に生息し、小笠原固有と考えられるグンバイウンカの一種(Kalitaxilla sp.)等のカメムシ目やバッタ目の種数や個体数が柵外の草原に比較して多いことが確認された。これら、飛翔力のないゾウムシや草原性の昆虫は柵内のみで世代交代が可能と考えられる。一方で、分散力が比較的高く柵内外を移動するか、周囲に供給源となる個体群が存在しないと考えられる飛翔性のコウチュウ目やハナバチについては、今のところ柵の内部での増加は確認されていない。
以上の結果から、ヒメカタゾウムシ類やバッタ・カメムシ類等、柵内で生活史が完結できる昆虫類の保全には柵設置による拠点防衛が有効な手段になると考えられた。しかし、まだ増加の見られない昆虫の保全再生や広域的なグリーンアノールの防除については、引き続き検討していく必要がある。