| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-448 (Poster presentation)

グリーンアノールのいない自然再生区をつくる! ~小笠原母島における外来トカゲ防除の実践~

*髙橋洋生, 秋田耕佑, 戸田光彦(自然研), 澤邦之(環境省), 鋤柄直純(自然研)

北米原産のトカゲ類であるグリーンアノールは、小笠原諸島の父島に1960年代に、母島に1980年代にそれぞれ侵入した。両島全域に高密度に生息するようになると、在来昆虫類を大規模に捕食し、多くの昼行性昆虫類が絶滅ないしそれに近い状態となった。環境省は、母島本来の生態系を再生することを目指し、2008年から母島の新夕日ヶ丘地区に自然再生区(約2ha)を設置してグリーンアノールの集中防除を行なっている。再生区の周囲にはアノールの乗り越えを防ぐフッ素樹脂シートを用いた柵を設置し、またその柵沿いの植生を約2mの幅で刈り取ることで、地上および樹上からの侵入を防いでいる。その上で再生区内部では約5000個の粘着トラップを常時稼働させて、アノールに高い捕獲圧をかけ続けている。再生区におけるアノール密度は、防除開始前は数千個体/haと推定されていたが、防除開始後数ヶ月で大幅に低下し、現在までその状態が維持されている。再生区の大部分の面積を占める林内と草原では、アノールはほとんど目撃されなくなった。また、本種の好適な生息環境となる柵沿いの林縁部でも、目撃頻度が防除前の1~2割程度にまで低下している。昆虫類にかかるアノールの捕食圧は大幅に低下していると考えられ、実際にモニタリング調査により、一部の昆虫類の種数及び個体数が増加していることが確認されている。以上のことから、遮断柵と粘着トラップを用いた防除手法は、アノールの低密度管理に有効であることが示された。本自然再生区では、アノール防除を継続することで、在来昆虫群集から成る生態系が再生していくことが期待される。一方、前述の方法を5年間用いているが、依然として再生区からのアノールの根絶には至っていない。今後も、より効率の高いアノールの防除技術の開発を継続していくことが重要である。


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