| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-06 (Oral presentation)

ツキノワグマにおける最低生存確認率の変動

*中村幸子,横山真弓,坂田宏志(兵庫県大/森林動物セ)

兵庫県では、2003年度から「ツキノワグマ保護管理計画」を策定し、ツキノワグマの保全と管理を実施している。第一期および第二期計画(2011年まで)では個体数の回復と被害軽減を目的とし、有害捕獲個体に対しては学習放獣を行うことによる捕殺によらない管理を進めてきた。しかし2010年には大量出没が生じ人身被害の危険性が高まったことから、過去最多の69頭が有害捕殺された。またその後個体数の回復傾向が確認されたことから、第三期計画(2012年から)では、有害捕獲個体の対応は原則殺処分となった。上記のこれまでにない人為的死亡が増加した結果が、県内個体群に与えた影響の有無を確認するために、本研究では2009年までの捕獲個体の年別および年齡別の最低生存確認率および、2010年前後の捕獲個体の齡構成の変化を分析した。

2003年から2013年に収集された、325頭に対する捕獲・死体発見記録および発信機装着による追跡結果を分析に用いた。最低生存確認率は、捕獲または追跡結果により、ある年(またはある年齢)に生存が確認された個体が、翌年も生存していることが確認された割合で算出した。その結果、年別変化では堅果類の豊凶年で相違があり、最低生存率は凶作年で平均58.5%、豊作年で平均77.8%であった。年齡別変化は亜成獣(3歳以下)では平均50.0%であったが、成獣(4歳から19歳)では75%以上を示した。また、2003年から2009年までの捕獲個体の齡構成と2011年から2013年までの捕獲個体の齡構成は、いずれも若齢層が多く高齢層が少ない個体数増加型の構成を示し、齡構成に有意な差は確認されなかった(P>0.05)。

以上より、兵庫県に生息するツキノワグマの生存は堅果類の豊凶に影響を受けるが、高い生存率を保持すること、2010年以降の捕殺は、個体群の存続に大きな影響を与えていないことが示唆された。


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