| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) B1-10 (Oral presentation)
絶滅危惧ⅠB類に指定されているイヌワシの保全対策の一環として、列状間伐などの人工林施業による採餌環境再生が試行されている。しかし、これまでに試行された施業は一律の効果をみせていない。そこで本研究では、本種のコアエリアの1つである岩手県北上高地の個体群24ペアを対象に、「行動圏内のどこで」「どのような施業方法により」「どの程度の規模」の森林施業を行うことが本種の保全策として有効なのかを検討した。
これまでの研究から、イヌワシの採餌環境再生を効率的にすすめるためには、以下の2つの条件を兼ね備えた場所で人工林施業を行う必要があることが明らかとなってきた。1) 主な餌であるノウサギの生息密度が増加しやすい立地を選ぶこと、2) ノウサギの生息密度を高いまま維持できると考えられる草本優占群落が形成される立地を選ぶこと。これらの条件を満たす人工林をイヌワシの行動圏内で探索したところ、伐採適期の針葉樹人工林のうち、列状間伐に適した候補地が約16%、皆伐に適した候補地が約37%存在することがわかった。次に、イヌワシ24ペアの繁殖成績を目的変数とし、各ペアの巣の状況および行動圏内の利用可能な餌量などを説明変数とする回帰モデルを作成した。この回帰モデルを用いて、イヌワシの個体数を維持するために必要とされる巣立ちヒナ数0.31羽(/ペア/年)を達成する場合に必要な人工林施業の面積を算出した。その結果、伐採適期の針葉樹人工林のうち、毎年約3%の面積を列状間伐すれば目標値に達すると試算された。また、行動圏内からランダムに選ばれた人工林で施業を行うよりも、先で明らかにした候補地で施業を行う方が、同じ面積でも効率的に繁殖成績を改善できることが示された。