| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(口頭発表) D1-06 (Oral presentation)
野生動物の摂餌生態を把握する上で、餌を取るために消費するエネルギーコストの定量化は不可欠な情報となる。狩りに出掛けた動物の代謝量を測定する手法として、既知の安定同位体比の水を投与し、その希釈率からエネルギー消費量を定量化する手法(二重標識水法:DLW法)が知られている。しかし、測定に必要な再捕獲は困難な場合もあり、研究者のアクセスが制限される水棲動物においては、理想的な手法とは言い難い。本研究では、動物搭載型記録計によって得られる遊泳速度から、移動に要するエネルギー量(移動コスト)を推定し、DLW法による報告値と比較することで、本手法の妥当性を検討した。
2012年と2013年の授乳期間中に雌のニュージーランドオットセイArctocephalus forsteri(28.8-47.4 kg、N=5)とミナミアメリカオットセイA. australis(37.2-47.8 kg、N=2)に記録計を取付け、計12回の採餌旅行中の時系列データ(潜水深度、体軸角度、遊泳速度)を取得した。潜水に要する移動コストは、代謝由来と行動由来のエネルギー消費量の2つに分けて定量化を行った。その結果、採餌旅行時の代謝率は6.4±0.4[J sec-1 kg-1]となり、その値は、水面滞在時間と高い線形相関を示した(R2=0.98)。同程度の体サイズのオットセイを対象としたDLW法による報告値は5.0-8.2 [J sec-1 kg-1]となっており、本研究による推定値(5.5-6.9)はその範囲内であることから、妥当と言える。また、時系列データを用いることで、DLW法では不可能であった1回の潜水における移動コストの定量化もできることから、時間分解能が高く、動物の行動情報を反映した新たな手法として、今後、他の潜水動物にも適応できると考える。