| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-08 (Oral presentation)

南極の冬をどうやって乗り切るか?非繁殖期におけるアデリーペンギンの移動と採餌

*高橋晃周, 伊藤元裕, 永井久美, JB THIEBOT, 木村詞明, 渡辺佑基(国立極地研)

冬の南極海は海鳥などの高次捕食動物にとって非常に厳しい生息環境となる。大陸沿岸では日長が極端に短くなり、最大1000km沖合まで海氷が海面を覆い、生物生産は低下する。南極の夏に大陸沿岸で繁殖するアデリーペンギンは、繁殖終了後、厳しい生息環境となる冬をどうやって乗り切っているのだろうか?これまで研究が進んでいない非繁殖期間中のペンギンの行動を明らかにすることを目的に本研究を実施した。

野外調査は2011-2013年に南極昭和基地近くの繁殖地で行った。繁殖中のアデリーペンギンの足にジオロケータを取り付け、翌夏に回収するという方法で、2回の非繁殖期にわたって移動や潜水行動のデータを取得した。

ペンギンは2月に繁殖地を離れ、8-9月まで主に北西方向へ最大1800km離れた海域まで移動し、その後繁殖地へ向けて帰還していた。ペンギンの北西方向へのループ状の移動軌跡は、海氷の動きの方向とおおむね一致しており、ペンギンの動きは海流・風に影響されることが示唆された。北への移動の結果、ペンギンが経験する一日の日長時間は、厳冬期でも5時間以上確保されていた。一方、潜水深度は季節的に変化し、日長の短い4-8月にはその前後の月よりも深くまで潜水する傾向があった。一日の潜水の開始・終了の時刻は日の出・日の入りの時刻とおおむね一致していた。また、一日の中で薄明薄暮の時間帯に日中より深く潜水するという夏には見られない特徴的な潜水行動が見られ、餌種の違いを反映すると考えられた。アデリーペンギンは海氷の拡大や日長時間の減少に合わせて北方海域へと大きく移動し、夏とは異なる潜水パターンをとりながら、冬の南極海を利用していることが明らかになった。


日本生態学会