| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) D2-07 (Oral presentation)

マイクロサテライトDNA分析から見たアカメの遺伝的集団構造

*上田修作・武島弘彦(東大・大海研),高橋 洋・田上英明(水大校),中山耕至(京大院・農),小松輝久(東大・大海研)

アカメ(Lates japonicus)は,宮崎県と高知県で稚魚から成魚までの個体が確認されている日本の固有種であるが,産卵場等の生態はほとんど明らかになっていない.限られた生息域しかないこと,発見される個体数が少ないことから絶滅が危惧されており,宮崎県では指定希少野生動物に指定され,捕獲が禁止されている.本研究では,アカメの保全に資する情報を得るために,本種の遺伝的集団構造の分析を行った.

アカメのマイクロサテライトDNA濃縮ライブラリーを次世代シーケシングし,約390万塩基対の配列を決定した.得られた配列に基づいて作製した,46のマイクロサテライトDNAマーカーを,高知県西部の四万十川,高知県中部の浦戸湾,宮崎県の個体に適用し,各個体の遺伝子型を決定した.5回のマルチプレックスPCRで46マーカーを精査できる実験系を開発し,効率的に大量のマーカーを調べた.

アカメ232個体の遺伝子型を決定した結果,20のマーカーで集団構造の分析に有効な多型が検出された.四万十,浦戸における成魚と稚魚および宮崎稚魚のアレリックリッチネス,およびヘテロ接合体率の期待値は,2.07~2.11と0.277~0.315となり,いずれも淡水魚の絶滅危惧種よりも低い平均値となった.また,全地点において,過去に集団サイズの減少を経験した可能性が示唆された.遺伝的分化の指標であるFst値を算出したところ,宮崎稚魚と他の地点の間に小さいながらも有意な遺伝的差異が存在し(Fst=0.0144-0.0259),宮崎稚魚の異質性が示された.このことから,現在のアカメには地域集団が存在することが示唆され,高知と宮崎では産卵場が異なるものと考えられる.本研究の情報に基づけば,絶滅が危惧されるアカメの各地域における保全が望まれる.


日本生態学会