| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-01 (Oral presentation)

遺伝子対遺伝子相互作用で駆動されるイネいもち病菌レース頻度変動(新潟県、1965-2004)の進化時系列解析

*佐々木顕(総研大・先導科学),中林潤(横浜市大・医)

イネに甚大な被害をもたらす「いもち病」に対しては種籾や種苗の殺菌とともに、いもち病菌に対する抵抗品種の利用が主要な防除戦略になっている。しかし抵抗品種に感染できるいもち病原菌Magnaporthe grizeanの変異体が数年で出現するため、抵抗品種の新規開発と導入とが不断に必要とされてきた。我々は新潟県全域における40年間におよぶイネ抵抗品種(抵抗性遺伝子座のハプロタイプ)作付け率と病原菌系統(病原性遺伝子座のハプロタイプ)の出現頻度の激変を示す時系列データを用い、遺伝子対遺伝子相互作用にもとづく病原菌進化動態の数理モデルを開発し、抵抗品種交替に急速に対応するいもち病菌の進化動態の解明を試みた。

統計モデル選択の結果、新潟県のいもち病原菌系統の進化時系列は、遺伝子対遺伝子相互作用で決まる適応度成分と病原性遺伝子のコストのみで記述される単純なモデルでうまく説明されることが示された。詳しく述べると、4つの主要な病原菌系統である001, 003, 007, 037の任意のペアのある年の出現頻度の対数オッズ比は、その系統が感染可能なイネ品種のその年の作付面積の対数オッズ比と(傾きが共通な)直線関係にあり(病原菌適応度が感染可能イネ品種作付け面積のべき乗に比例することを意味する)、その切片は、それぞれの系統の持つ病原性遺伝子の数の差に比例して減少すること(病原性遺伝子1個あたり一定のコストが存在することを意味する)が見いだされた。病原菌系統のピーク時の頻度が種籾や種苗期の初期頻度に依存しないのもこのモデルの顕著な特徴である。今後はこのモデルにもとづく最適な抵抗品種交替戦略や混植戦略についても議論を進める予定である。


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